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広島高等裁判所 昭和36年(ネ)254号 判決 1964年3月16日

控訴人 池田浩 外二名

被控訴人 広島労働基準局長

訴訟代理人 森川憲明 外三名

主文

控訴人池田浩の本件控訴を棄却する。

控訴人原田俊、同二井野博の当審における新訴を却下する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、控訴人池田につき、「原判決を取り消す、被控訴人が最低賃金法第九条に基づき定めた原判決添付別紙記載一の決定を取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決、控訴人原田、同二井野につき、当審において訴を変更し、「被控訴人が最低賃金法第九条に基づき定めた別紙記載の決定を取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求めた。被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

(一)  憲法第二五条、労働基準法第一条の趣旨に合致する控訴人らの受くべき最低賃金額は、控訴人らが現在得ている賃金額を超えている。右金額は健全な社会通念により客観的に定まつている。しかるに、右正当なる最低賃金額は、本件各決定によりその実現を阻まれた。従つて、右正当なる最低賃金額と控訴人らが現に得ている賃金額との差額が控訴人らの受くべき最低賃金法上の利益であつて、この利益が本件各決定により害されているのである。

(二)  控訴人原田、同二井野が従来取消を求めてきた原判決添付別紙記載二の決定は昭和三七年八月一四日付で別紙記載のとおり改正されたので、改正前の決定に対すると同一の理由によりその取消を求める。

と陳述し、被控訴代理人において、右(二)の公示改正の事実を認めたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

証拠<省略>

理由

当裁判所は、控訴人池田の請求が訴の利益を欠くものであると判断するのであるが、その理由は次に付加するほか原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

控訴人池田は、「最低賃金法により決定せらるべき正当な最低賃金額は健全な社会通念により客観的に定め得るもので、その額は現在控訴人の受けている賃金額を超えている。従つて、右正当に決定せらるべき最低賃金額と現に控訴人の受けている賃金額との差額が本件決定によつて侵害されている控訴人の法律上の利益である。」と主張する。しかしながら、本件行政処分の取消を求めるためには、控訴人が本件行政処分によりその権利又は法律上の利益を侵害されたことを要するのであるが、本件においてかかる侵害の存せざることはさきに引用した原判決理由において詳細に説示されているとおりである。控訴人主張に係る右利益は、本件行政処分を違法として取り消すことにより最低賃金額が本件行政処分の定める金額よりも引き上げられ、その結果控訴人の受くべき賃金が増額されるという事実上の期待を指すにすぎないもので、これをもつて法律上の利益ということはできない。控訴人の主張は理由がない。

よつて控訴人池田の本件訴を却下した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民訴法第三八四条によりこれを棄却すべきである。

次に控訴人原田、同二井野の訴について審究する。同控訴人らが従来取消を訴求してきた原判決添付別紙二記載の被控訴人の決定が、昭和三七年八月一四日付で別紙記載のとおり改正されたことは当事者間に争がない。よつて、改正前の決定は右改正により失効し、その存立を失つたものといわなければならない。

しかして、控訴人らは、昭和三八年一二月二四日の本件口頭弁論期日において訴を変更し、新たに昭和三七年八月一四日付でなされた前期行政処分の取消を求めるにいたつたものであるところ、行政事件訴訟法附則第七条第一、二項によりその出訴期間は処分のあつたことを知つた日を基準として六箇月以内(ただし、同法施行の日たる昭和三七年一〇月一日から起算して三箇月をこえることができない。)で、しかも、処分の日から一年以内とされているから、控訴人らが訴を変更した昭和三八年一二月二四日にはすでに出訴期間を経過していることが明白である。

しからば、控訴人らの新訴は不適法として却下を免れないものである。

よつて、民訴法第九五条、第八九条、第九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 西俣信比古 宮本聖司)

別紙

昭和三七年八月一四日広島労働基準局最低賃金公示第六四号広島県輸送用機械器具製造業(東友会)最低賃金

1 適用する使用者 昭和三七年六月二五日申請代表者東友会会長訴谷徳蔵によつて行われた申請に係る業者間協定の同日現在の当事者である使用者

2 適用する労働者前号の使用者に使用される労働者

3 前号の労働者に係る最低賃金額 一日三二〇円

以上

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